インスタに食事をアップする人は心身のバランスが整っているのかもしれない

20年程前に、「いつまでもデブと思うなよ」という、レコーディングダイエットの本がベストセラーになりました。内容は、自分の食べたものを書くだけでよいという非常にハードルの低いものです。

書くだけで痩せるの?そう思うのが普通なのですが、筆者は1年で50kgやせたらしく、結果に繋がっているわけです。書くだけでなぜ痩せたのでしょうか?

著者によると、「書くことでいかに太る努力をしていたのかに気付いた」といいます。自己認識の向上と、食への意識の変化がおこるそうです。本人はどれだけ食べているのかリアリティをもって認識していないということでしょうか。

この話、私は、納得する部分が多く、頭で考えているうちは認識が甘く、書くことでやっとリアリティレベル高く認識できている感覚があります。自分でも面倒だと思うのですが、書かないと認識レベルが低いと感じます。

思考を現実化するためには「書く」ことが大事ではないだろうかと思っています。

書くことの効果はどれほどあるのだろうか?という疑問は尽きず、その中で出会った論文が今回の論文です。

論文タイトル
「The Health Benefits of Writing About Life Goals」
https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/0146167201277003

書くことが心と体に与える影響

今回も結論から言うと、自分の最高の状態をイメージして書くことで、心の健康はもちろん、体の健康状態までよくなるという研究結果が示されています。

以下は実験内容を知りたい方はどうぞ。

参加者は81名の大学生を以下の4グループにわけました。
1.トラウマについて書くグループ
2.最善の可能性のある自己(BPS:best possible selves)について書くグループ
3.両方(1と2)の両方について書くグループ
4.その日の予定を詳しく書くグループ(コントロールグループ)

参加者は4日間、書き込みタスクを行い、その後「気分」と「内容」への評価を行いました。気分とは、書き込みタスクの前後で自分の気分を評価、「内容」とは自分の書いたものが重要で、感情的で、困難で、そして動揺させるものであるかを評価しました。

その後、その書いたものを第三者が内容を分析し、心理的身体的健康を測定しました。

第三者はエッセイの内容を感情の強さ、ネガティブさ、ポジティブさ、最適主義、他人への責任の帰属、自分への責任の帰属などの観点から分析しました。心理的、身体的健康は、実験前後で、いくつかの尺度を組み合わせた複合指標で評価され、身体的健康は、学生健康センターでの診察回数を元に評価されました。

結果は、BPSについて書くことが、ポジティブな気分の上昇と関連し、トラウマについて書くことが、ポジティブな気分が低下と関連することが示されました。

これらの結果は、トラウマを書くだけのグループに比べて、コントロールグループ、BPSについて書くグループ、および両方の内容について書くグループが有意に心理的および身体的な健康が良好であることを示しています。

この研究は、書くことの内容が個人の気分と心理的および身体的健康にどのように影響を与えるかについての洞察を提供しています。

書くこと以外の方法で効果があるか

個人的に私は「書く」ことが好きなので、これをもって「書くことが心と体の両方に良い影響を与える」と言えるのではないかと思いました。

以前は手帳といえばスケジュール管理のツールだったのですが、近年は日記的なログを残す手帳が人気です。良いものだから人気があると言いたいところです。

しかし、私はこの論文だけではそんなことは言えないと思いました。それは、この論文の条件が全て「書く」からです。

ただ単に予定を書くだけより、書く内容がBPSや嫌なことなどを書けば一定の効果があるというのは示唆されていますが、それはペンで紙に書く以外と比較しているわけではありません。また、この論文が2001年のもので、少し古いのも気になりました。

というわけで、追加で探した結果、次の論文を見つけました。

「The effectiveness and equivalence of different versions of a brief online Best Possible Self (BPS) manipulation to temporary increase optimism and affect」
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36724699/

もう長くなってしまうのでざっくりと説明します。

BPSを書いてイメージするグループ、BPSを書くのみのグループ、BPSをイメージするのみのグループと、1日のことを書くだけのコントロールグループに分けて気分を良くする効果との関連を調査しました。体への影響はこの論文では調査していません。

結果は書いてイメージ、書くだけ、イメージだけでも効果がありました。

これにより、書くことの効果を言うことができなくなりました。残念ですが、イメージだけでも効果があるというのは楽でよいですね。

自己認識より自己制御

先の論文ではトラウマでもBPSでもセルフレギュレーション(自己制御)が向上することが重要だと言います。

その日の予定を書くだけでは、何かコントロールしなければならないものがあるとは思わないでしょう。もしかしたら締め切りのあるタスク、今後の工程表を書いたら効果があるのかもしれません。

冒頭で書いたレコーディングダイエットは自己認識が向上し、コントロールの必要性を感じさせるのかもしれません。

もし、書くことが必須ではないとしたら毎日の食事を撮影してSNSのアカウントにアップして日々見ていくだけでもセルフレギュレーションが向上し、心身に効果があるのかもしれないと思ったところで今回は終了です。

「情けは人のためならず」に科学的な根拠を与えたかもしれない

講義の途中や最後に「質問はありますか?」と聞いても、答える人はあまりいません。

それは、質問がない程に受講生が理解しているのではなく、単純に質問が思いつかないという場合がほとんどです。これは、講義を理解していないことを意味します。

質問というと、「視点を変える」や「事例にあてはめる」など、いわゆる「いい質問」をイメージしますが、相手の話を理解していなければ質問はできません。

質問は、自分の理解を高める手法という一面がありますが、そのためには、まず話の理解を高める必要があります。

では、理解を高める勉強法とは何でしょうか?

わかりやすい講義、わかりやすいテキスト、問題に対するわかりやすい解説などが思い浮かびますが、それよりも単純な方法があります。

今回の論文は、理解を高めるための効果的な方法に興味がある人にぜひ読んで欲しいものです。

論文タイトル
Dyadic explanations during preparatory self-study enhance learning: A randomised controlled study

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33686715/

説明は理解を深めるか?

忙しい人のために結論を言うと、自分や他人に説明することで、知識の習得や理解の向上を促すことができるという研究結果を示しています。

以下、実験内容を少し知りたい方はお読みください。

実験は120人の将来有望と思われる医学生たちを、1回動画を見るグループと2回動画を見るグループ、自己説明グループと、相互説明グループの4つにランダムに振り分けました。

その後、実験手順が書かれた紙を読んだ後、

・1回動画再生グループは、動画を一度視聴した後、テスト

・2回動画再生グループは、動画をもう一度視聴した後、テスト

・自己説明グループは、動画視聴後に自分自身に説明(たぶん独り言)をしてテスト

・相互説明グループは、動画視聴後にお互いに説明しあった後、テスト

そして、全ての参加者は、1週間後に再度テストを受けました。

個人的にこの1週間の間に実験に参加した学生同士で話をすると実験の結果に影響を及ぼした可能性は否定できないと思います。

結果は自己説明グループと相互説明グループは、動画を見ただけの2つのグループよりも有意に成績が良く、相互説明グループは、他の3つの条件よりも優れた結果になりました。

自己説明、相互説明のアプローチは、アクティブラーニングというもので、能動的になり、理解を深め、知識の定着を促すことができます。

実験結果はアクティブラーニングのICAP理論(対話的・建設的な関わりは、能動的・受動的な関わりよりも優れた学習につながるという仮説)の説得力をさらに増すものでした。

※ICPA理論について知りたい方は下記論文を読んでください。本当に面白いです。
https://bmcmededuc.biomedcentral.com/articles/10.1186/s12909-019-1901-7

勉強は仲間がいた方がよい

難しく考える必要はありません。

例えば、学生は単に講義を受けるだけよりも、自分に対して説明する方が良く、さらに、ペアで説明しあうことで、より効果的に学ぶことができるかもしれません。

これはビジネスマンにも同様に当てはまります。

チームで新しいプロジェクトに取り組む際、知らない分野を学ぶ必要があるでしょう。

その場合に、お互いにアイデアやタスクに関する理解を共有し、説明し合うことで、知識の習得や理解の向上を促し、効果的にプロジェクトを進めることができる可能性があります。

要するに、この論文は、学びの方法を効果的に変えるための一つのアイデアです。

しかし、小さな一歩ですが、学びや仕事の取り組み方を見直し、効果的な方法を実践することで、より良い結果を得ることが期待できます。

また、コミュニケーションをとるため、相互理解が深まり、周囲の人々との協力関係も向上させる効果があります。

まとめると、自分や他人に説明することを積極的に取り入れることで、理解度の向上や知識の定着、さらにはチームワークやコミュニケーション能力の向上にも繋がるということです。

仲間がいる人は勉強が捗るという結果は独学ばかりやっている自分には悔しい結果となりました。

ただ、私のことで恐縮ですが、昔は個人プレーに走りがちだったのですが、最近はチームっていいなぁと本当に思います。なかまだいじに。

「情けは人のためならず」とは,人に対して情けを掛けておけば,巡り巡って自分に良い報いが返ってくるという意味ですが、この実験は他人に説明すれば自分の理解が進むので、巡るどころか即、効果があるので、「説明は人のためにならず」と言えるなと思ったところで今回はおしまいです。

嫌な気分は胃薬でなんとかなるかもしれない

今月のAiジャーナルクラブは「A Causal Role for Gastric Rhythm in Human Disgust Avoidance(ヒトの嫌悪感回避における胃のリズムの因果関係)」をクリティークしました。

何か、見るだけで目を逸らすような不快感を感じるものってありますか?

例えば、戦争の画像、災害の画像、グロテスクな画像はそうですね。あと、汚いものとか、台所にあらわれる通称Gとか。

人や物を見るだけで嫌になり目を逸らすという嫌悪感

それは人によりある程度異なりますが、見るだけ嫌になるため目を逸らすことが生理的な反応というものでしょう。

そこで、ボタンやスカーフのようになんでもない画像を見た時と、嫌悪感を感じる画像(この実験では排泄物)を見た時の目の動きを比較すると嫌悪感のレベルが測定できると考えたようです。

どうしたら嫌悪感を軽減できるのか?

研究者は「嫌悪感を抱いたら胃の調子が悪くなるから、胃薬飲んだら嫌悪感なくなるはず(意訳」と考えたのだと思います。一般的な胃薬「ドンペリドン」を飲む前と飲んだ後で目の動きに変化があるのかを実験しました。

この論文の面白がりポイントは実験の設定にあると思います。

「胃薬飲んだら嫌悪感軽減するんじゃないか?」

心配事が多かったら胃が痛くなることがあるので、メンタルが体調に影響を与えるのは経験的にわかるのですが、胃が大丈夫ならメンタルにも軽減効果があるんじゃない?と逆に考えるのが面白い。

卵が先か鶏が先かではないですが、逆にして考えるという発想はなかなか思いつかないと思います。やはり体調が良いとメンタルもよくなりますからね。

これが可能なら嫌な人に会う前には胃薬、嫌なことをやる前にも胃薬となるかも。

最近は有名人が昆虫をたべてみたというニュースを見たことがあるし、そこらへんを狙ってそうな気がしました。

論文は実験風景を想像すると面白い

88回も嫌悪画像見るんですよ!そして時給1500円程度ですよ。

見るたびにインセンティブが発生するターンもあるのですが、数十円単位。1万円にもなりません。

そして、6時間絶食でカフェインやニコチン禁止。軽く200mlの水を飲んだだけです。

健康診断ですかね?壮絶です。

そして嫌悪画像はどうやって準備したんでしょうか。ネットで検索して使ったのでしょうか。それとも独自で・・・。

どちらにしろ実験準備の段階で胃薬が必要な気がします。

さて、結果はどうかというとざっくり言うと効果あり。

ただし、本人の自己申告では嫌悪感は減っていません。あくまで目の動きに軽減効果があったというのが正しい言い方でしょうか。しかし、生理的な反応に効果があるというのは大きな発見です。

この実験は今後どうしたいのかイマイチわかりません。普通は今後の展開を書いているのですが、実験に至った経緯も今後の展開もない、ちょっとその点わかりにくい論文でした。

私はAiジャーナルクラブをこのような楽しみ方をしています。何かに役立ててやろうという野心は読み始めにはありません(私だけの話です

自分も大学院で研究していたことがあるのですが、いい年した大人がバカみたいなことを真剣にやるのが面白くて仕方がありません。

一つの論文が学術誌に掲載されるまでにはとんでもない苦労と努力が隠れている。それを想像すると単純に面白く、読み進めるとためになる知識があったりなかったりします。

読むなら英語の論文がいいです。

今は翻訳アプリの能力が高いのでほぼ気にせずに読めます。Aiジャーナルクラブは設立して間もない頃から「DeepL」を推奨しています。よかったら検索してみてください。

abstract(概要)が論文にはあるのでそれだけ翻訳して読んでも面白いですよ。ああ、そこらへんはまた別の記事にしましょう。

それでは、次回は4月2日の予定。アクティブラーニングに関する論文の予定です。

今回の論文リンク

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33238154/

Aiジャーナルクラブってこんなことしています

Aiジャーナルクラブは基本的に担当者に任せられます。

担当者はこの論文を選んだストーリーを話し、内容に入っていくのですが、今回は掲載誌のインパクトファクター(信頼度みたいなもの)を調べ、研究者の専門まで調べてくれたようで、大変イメージがわきやすかったですね。

正直なところ、実験データ、計算式の導き方また、統計の見方はまだまだ難しいので、Aiジャーナルクラブの主催者でもある有永さんにレクチャーをうけることが多いです。

この点なんとか自分でも見れるようにと思い、統計学の本も読んだのですが、どうにも難しい。

こんな私でも偉そうに進行役やってますので興味のある方はご連絡ください。

info@tsunaguba.com