今回は、最近あらためて読んだ古典的名著「道は開ける」(デール・カーネギー著 初版は1948年発行)に関して書きます。
この本を最初に読んだのは、学生の頃でしたが、当時、読んで驚いたのは、アメリカ人、とくにエグゼクティブも悩むことがある!ということでした。
当時の私の勝手なイメージは、アメリカ人は、ポジティブシンキングの都会人と、脳天気な田舎人で構成されていて、少なくとも日本人のようには悩まない人たちというものです。
しかし、その頃、「普通の人々」というアメリカの映画(1981年)を観て、これも悩むアメリカ人の話で驚きました。
この映画は、弁護士一家、いわゆるエリート家族の家庭崩壊の話なのですが、「WASP(ホワイト・アングロサクソン・プロテスタント)白人エリート層」も悩むんだ、と思いました。
この人たちは、いかなる状況でも「悩むことは時間の無駄」だと合理的に考え、悩まないよう、自己管理する人たちだと、私は思っていたのです。
まあそういう人もいるでしょうが、「道は開ける」と「普通の人々」のおかげで、古今東西、基本的に「人間は悩める生き物」なのかもしれないと、考えを新たにしたのでした。
さて、「道は開ける」ですが、この本は「あらゆる人間に共通する『悩み』の実態とそれの克服法を述べたもの」と、文庫本のまえがきの訳者の言葉に書いてあります。
デール・カーネギーという人は、1888年にアメリカの農家に生まれ、大学卒業後は、販売の仕事で成功するも、講演会の講師になるという夢のため、販売の仕事を辞めて、ニューヨークに行き、そこで苦労しながらも「スピーチ」のクラスが大成功。この本や「人を動かす」などの著書が世界的ベストセラーになった人です。
この「道は開ける」は、8部から構成されていて、7部までで28章、最後の8部に実話31編が収録されています。7部までは、最後に「まとめ」が入っています。
カーネギーは、この本を執筆するために、「孔子からチャーチルに至るまでのあらゆる種類の伝記数百編を読破」し、「各界の有名人を相手に数多くのインタビューを重ね」、「五年のあいだ、悩みを克服するための私自身の成人クラスという実験室で研究を続けた」と書いています。
参考になることはたくさん書いてありますが、そのなかから、悩みを克服するためにとくに重要だと感じた部分をまとめてみました。
まず、「『今日一日の枠のなかで生きる』こと。未来のことを気に病まない」「過去は墓場へと葬ろう」。
「多忙な毎日によって悩みを追い出そう」とも書いてあります。
今日に集中し、一生懸命生き、余計なことを考えないのが、悩みを遠ざける基本だと思います。
しかし、それでも勝手に悩みが生まれることもある。
悩みそうな場合には、次の問いと答えを書き出してみること。
「問題点は何か?」「問題の原因は何か?」「いくとおりの解決策があって、それらはどんなものか?」「望ましい解決策はどれか?」
単に頭の中で考えているより、書いたほうが、客観的に捉えられていいと思います。
悩んでいる状態は、多くの場合、自分の感情にどっぷり浸かり、狭い範囲しか見えていないため、少しでもその状態から離れたほうがいいでしょう。
「他人のためにささやかな幸福を生み出すように努力することによって、自分自身の不幸を忘れよう」「不足しているものではなく、恵まれている点を数えてみよう」というのも、自分の不幸・悩みばかり考えている状態から離れるのによいと思います。
さらに、「避けられない運命には従え」「最悪の事態を自問し、やむをえない場合には受け入れる心構えをする」。覚悟を決めることです。
「それから落ち着いて最悪の事態を好転させるように対処する」
覚悟を決めてから、客観的に考え、好転させるように考える。
悩みは、健康を害し、死にもつながる。「悩みの習慣を早期に断とう」という本書は、66年前に出された本ですが、もう何千年も、もっと前から悩んでいる「悩める生き物」にとっては、全然古くならない本だと思います。